第5回 受賞作品紹介

物語部門

最優秀賞

『あめくんデビュー』坂井 敏法

あらすじ

デビュー間近の「あめくん」が、ワクワクしながら下をのぞくと、楽しそうに遊んでいる小さな男の子とそれを優しく見守るおばあさんがいます。毎日見ているうちに二人のことが大好きになったあめくん。
待ちに待ったデビューの前日、男の子がてるてるぼうずをつくり、明日がいい天気になるよう祈っていることを知ってとてもショックを受けます。明日のデビューをとりやめてもらおうと天気の神様にお願いに行くあめくんですが……
大切なひとを思いやる優しい気持ちに心が温まるストーリーです。

作者

文:坂井 敏法
絵:植田 知成

物語部門 選評

今回は、小学6年生(応募の時点)の坂井敏法君の作品が、最優秀賞に輝きました。最終審査委員総てが最高得点をつけるという、異例の結果の入賞です。
主人公はデビュ-をひかえた、生まれたてのあめくん。雨を降らせることに意欲満々のあめくんに、思わぬ事態が起こります。空から見下ろして好感を持っていた小さな男の子が、てるてる坊主を作りおばあちゃんのために“いい天気”を願うのです。ところが、この“いい天気”が、全くの逆発想だったことには、意表を衝かれました。お話を巧みに盛り上げる技術にも秀でた、最優秀賞にふさわしい作品です。

選考委員 岡 信子
審査風景

こどもの部

優秀賞

『迷子になった影法師』桜糀 乃々子

物語部門 選評

このお話の一番の魅力は、影法師の持ち主が誰かわからないことでしょう。その持ち主探しがおもしろく、読む人を物語の中に引き込んでくれるのです。また持ち主の特徴が、かなりおかしくて笑ってしまいます。さらに持ち主から離れて15日たつと消えてしまう設定には、はらはらさせられました。結末も意外性があってみごと。短い枚数の中にいろいろな要素を取り入れて、ばらばらにならずうまくまとめあげたことに拍手をおくります。

選考委員 山本 省三
審査風景

佳作

『ぼくのふしぎな手』横谷 友哉

『楽しい音楽隊』中山 裕貴

『おしゃれって楽しい?』星下 笑瑠

大人の部

優秀賞

『チョッキン屋へようこそ』山本 志穂

物語部門 選評

ヘビくんは散歩の途中、「チョッキン屋へようこそ」という看板をみつけました。木の上から見ていると、クマもウサギものびた毛をチョキチョキチョッキン。そう、ここはキツネさんのお店「かっこよくなりたい人の変身屋」です。この作品の素敵なところは、毛のないヘビくんと、自分の毛を自由にできないキツネさんの、お互いを思いやる優しさです。主人公がおしゃれをしたいヘビくんというのもユニーク。無駄のない文章にも創作力を感じます。

選考委員 正岡 慧子
審査風景

佳作

『ケーキになった庭』タン 太衣子

『恋するソラちゃん』田中 信彦

『こんにちは、サメです。』佐々木 加代子

絵画部門

最優秀賞

『ぼくはおうさま』植田 知成

絵画部門 選評

単純明快であることが、子どもの心を最も強く引きつける。というのが絵本の役割りだとすれば、それにぴったりの作品です。赤と青の2色しかないのに奥行きが感じられるのはなぜでしょう。じっと凝視しているとなんだかいろんな色が現れてくるような気がします。自由自在に配置された身の回りの日常品は、どれも実に楽しげで、ことばがなくとも物語を想像させる絵の魅力を持っています。何気ない洒脱なスタイルも癒されます。

選考委員 坪内 成晃
審査風景

優秀賞

『たからさがし』滑川 麻衣

絵画部門 選評

何層にも重ねられた、えのぐの滲みや暈かしを利用した濃密な色彩表現は、デジタル処理にない極めて人間的で温かみを感じさせる世界を導きだしています。魚のような生命をもった巨大な潜水艦や海底の表情は、レトロながら何か近未来的なムードがあります。古いものと新しいものの融合は不思議でもあり身近い存在のようにも感じさせる作品です。作者の卓越した描写表現と創造熱意はたかく評価することができます。

選考委員 坪内 成晃
審査風景

優秀賞

『宝物をもらった夜』伊東 宣哉

絵画部門 選評

ここには心にくいほど計算されたファンタジーの世界があります。独創的でクリームのような建物や人間、さらに擬人化された動物たちがうまく遠近的に配置されスケールのある画面に仕上げています。整理されたシャープな色調も、空気感のある伸びやかな都市をつくるのに効果的です。空間同様、時間の感覚も自在にあり一枚の絵画としても完成された作品で心地よいものがあります。ただ、顔の表現が単調なのが少し残念です。

選考委員 坪内 成晃
審査風景

佳作

『おつきさま』溝渕 優

『地球はまわる』上原 沙也加

『モルモットちゃん』岸田 あさみ

日本新薬特別賞

『ゆめのちから』吉信 素子

『やさしいおに』前田 愛実

第5回 選考委員紹介

日本新薬こども文学賞 選考委員の紹介です。

岡 信子(おか のぶこ 絵本・童話作家)

プロフィール
岐阜県に生まれ、東京に育つ。幼稚園教諭を経て、絵本・童話作家として独立。主な作品に『海の見える観覧車』(小学館)、『夜あるくお人形』(文研出版)など多数。『花・ねこ・子犬・しゃぼん玉』(旺文社)で日本児童文芸家協会賞を受賞。『はなのみち』は、33年にわたり小学一年生の教科書に、『おおきなキャベツ』は小学2年生の教科書に掲載され、多くの子どもたちに学ばれてる。一般社団法人 日本児童文芸家協会理事長を経て、現在、一般社団法人 日本児童文芸家協会顧問、及び、(社)日本文藝家協会理事。

すとう あさえ(絵本・童話作家)

プロフィール
幼児教育番組制作を経て、絵本の仕事をはじめる。作品に『ざぼんじいさんのかきのき』「にょろへびやのへびんくん」(岩崎書店)『ごうた一年生でしょっ』『タネオがきた』(文研出版)「一円大王さま」(ひさかたチャイルド)『じいちゃんのステッキ』(福音館書店)などがある。紙芝居に『ぶるるん ぶるた』『ぴよぴよぴよちゃん』など。『子どもと楽しむ 行事とあそびの絵本』(のら書店)で第55回産経児童出版文化賞受賞。 現在、一般社団法人日本児童文芸家協会理事。

坪内 成晃(つぼうち しげあき 京都精華大学名誉教授)

プロフィール
1944年、京都市生まれ。京都市立美術大学(現京都市立芸術大学)卒業。京都精華短期大学(現京都精華大学)助手、京都精華大学講師、助教授を経てデザイン学部ビジュアルデザイン学科 イラストレーションコース教授。2010年、学長に就任し、2014年まで務める。京都精華大学創立時より一貫してビジュアルデザイン教育に携わり、数多くのクリエイターを輩出。専門はイラストレーション、ポスター、舞台デザイン、装丁等。

細谷 亮太(ほそや りょうた 聖路加国際病院 小児センタ―長)

プロフィール
1948年、山形県生まれ。72年、東北大学医学部卒業、聖路加国際病院小児科勤務。77〜80年、テキサス大学MDアンダーソン病院がん研究所小児科にクリニカルフェローとして勤務。80年、聖路加国際病院に復職し、94年小児科部長、2003年副院長。専門は小児血液・腫瘍学。俳人(俳号は喨々)としても活躍するほか、エッセイやコラムを多数執筆。主な著書に「医師としてできること できなかったこと」「小児病棟の四季」ほか。2013年から現職。

正岡 慧子(まさおか けいこ 絵本・童話作家)

プロフィール
広島に生まれる。アメリカ系広告代理店勤務を経て、童話・絵本作家となる。著書に『かばんの中のかば』(あかね書房)、『きつねのたなばたさま』(世界文化社)、『ぼく、まってるから』(フレーベル館)、『ゴロゴロドーン かみなりさまおっこちた』(ひかりのくに)、PHP研究所のおしごとシリーズなど多数。全国的に読み聞かせ運動の普及にも尽力している。一般社団法人 日本児童文芸家協会会員。

山本 省三(やまもと しょうぞう 絵本・童話作家)

プロフィール
1952年神奈川県生まれ。横浜国立大学にて児童心理学を学ぶ。卒業後、医薬品メーカーのコピーライターを経て、絵本創作をはじめる。絵本の他、童話、紙芝居、パネルシアター、造形、パズル考案など、子どもにかかわるさまざまな分野を手掛ける。絵本では『おふろでぽっかぽか』(講談社)、『メリーゴーランドのちいさなうまタイニー』(幻冬舎)、童話には『ゆうれいたんていドロヒュー』シリーズ(フレーベル館)などがある。『動物ふしぎ発見』シリーズ全五巻〈くもん出版〉で、第34回日本児童文芸家協会賞特別賞を受賞している。現在、一般社団法人日本児童文芸家協会常務理事。

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